概要

本研究では、3DCG空間でいけばなを練習するシステムTracKenzanを提案する。本システムのユーザは、トラックパッドとタッチペンをそれぞれ剣山と花軸に見立てて操作し、3DCG内でCGの花をいける。これにより生花を用意する必要なく繰り返しいけばなを練習できる。TracKenzanのユーザビリティならびにいけばな練習に対する効果を検証するために、いけばな初心者に対し、TracKenzanの有無による二要因被験者間比較を行った。その結果、TracKenzanのユーザビリティ検証においては、操作方法が直感的で、学習コストが低いことが明らかになった。また、TracKenzanを用いたいけばな体験では、いけばなへの興味が促進したこと、ならびに、作品への満足感や楽しさを提供したことから、TracKenzanは実世界のいけばなとほぼ同じ体験を提供可能であることが確認できた。

システム構成

本システムはmacOS上でUnityを用いて実装した。LCDとして、ASUS社製15.6型フルHDモニタ(MB169C+)を縦置きで使用した。剣山デバイスにはApple社製のMagic Trackpad 2を使用した。マルチタッチジェスチャが取得可能であり、また花軸を剣山に挿したことを感圧センサで取得し、振動を用いてユーザにフィードバックする。花軸デバイスの本体はユーザが把持する金属製の棒である。これの先端には導電性のゴムが取り付けられ、トラックパッド上でタッチペンとして機能する。反対の端にはネジを加工し、HTC社製の VIVEトラッカーを取り付けた。また花軸デバイスを見渡せる場所に、トラッカー検出のためのVIVE ベースステーションを1個設置した。これにより、花軸デバイスの傾き・回転・空中での位置を検出することができる。

使用手順

• トラックパッドと花軸デバイスのキャリブレーションをする。
• 花器の選択操作：トラックパッド上で3本指で左または右にフリックする。
• 花材の選択操作：トラックパッド上で1本指で左または右にフリックする。
• 花材の切断：トラックパッド上でピンチインすると，花軸デバイスで操作中のCG花材の花軸が切断される。
• 花材の復元：トラックパッド上でピンチアウトすると，花軸デバイスで操作中のCG花材の花軸が復元される。
• 花材の挿入：花軸デバイスが花材を操作している状態で，トラックパッド上に花軸デバイス先端を押下する。
• 花材の挿し直し：花軸デバイスを把持してない手の指3本をトラックパッド上に接触すると、任意のCG花材を選択できるようになる。その状態で花軸デバイスをトラックパッドに押し込むと、指定した花材を引き抜くことができる。

評価実験

TracKenzan を用いた練習が生花を用いたいけばな制作に効果を持つのかを確認するために、TracKenzanを使用してからいけばな作品の制作を行う群と、TracKenzanを使用せずにいけばな作品の制作を行う群の2グループの被験者を対象として、いけばな作品の評価・ TracKenzanを使ったいけばな制作体験と生花を使ったいけばな制作体験の同質性・TracKenzanのユーザビリティを評価した。

結果

発表文献

• 横窪 安奈, 加藤 祐二，薬師神 玲子，椎尾 一郎： TracKenzan：トラックパッドとタッチペンを用いたいけばな練習システムの提案と評価，情報処理学会論文誌60(11), pp.2006-2018 (2019).
• Anna Yokokubo, Yuji Kato, Itiro Siio: Development of Tangible Controller for Ikebana Training System, IEEE CPMT Symposium Japan (ICSJ), pp.111-112 (2019).[invited talk]
• 横窪 安奈, 加藤 祐二，椎尾 一郎： TracKenzan：トラックパッドとタッチペンを用いたいけばな練習システム，WISS2018, pp.13-18 (2018).